【徹底解説16000字】福田正人RIZIN審判部長に聞く「RIZINと競技運営の現状」

左からジェイソン・ハーゾグ、福田正人、梅木よしのり氏のRIZIN競技運営陣

 

福田正人RIZIN審判部長に聞く「RIZINと競技運営」16000字インタビュー。競技面に関していといろと批判されがちなRIZINであるが、実際はどうなっているのか? 興行側の向き合いから体重管理、そしてドーピングまで現状を率直に語ってもらった(聞き手/ジャン斉藤)



――福田さんはレフェリーやジャッジとしてRIZIN、DEEP、修斗、パンクラスの国内主要団体に関わっていて、 RIZINとDEEPでは審判部長という立場でいらっしゃるそうですね。


福田 はい。そういう立場になりますね。


――RIZINは「ちゃんとやれ!」とか選手や関係者から叩かれやすいですが、その責任者ってもの凄く大変そうですねぇ。


福田 たしかにRIZINはいろいろと言われがちではありますね(笑)。でも、私がRIZINの審判部長だから言うわけじゃないんですが、他の団体と比べて競技運営が緩いわけじゃないですし、RIZINはそれなりに厳格にやっていると思うんですけどね。完璧なのかというと、まだまだ足りないところはあるんですが……。他の団体にも参加する中で、常にRIZINが他と比べてどうなのか? ということは把握しているつもりです。


――今回福田さんを取材するにあたり、RIZINに参戦している選手や関係者から競技運営の現状について聞いてみたんですが「想像以上にしっかりやっていますよ」という声があったんですね。


福田 それは印象が悪かったということなんですかね(笑)。


――ハハハハハハハ。「あ、そんなところまでフォローしてるんだ」という話も聞いてるので、RIZINはもっと「ちゃんとやってます!」アピールしたほうがいいんじゃないかなって思ったんです。


福田 でも、私たちはあくまでフリーランサーとしての参加なので、正確にはRIZINの人間ではないですから。そういったアピールをすることが難しい立場にはなるんですね。


――ということは、広報の笹原(圭一)さんの職務怠慢という結論になりますかね(笑)。


福田 ただ、RIZINはビッグプロモーションということで注目度も高いですし、試合後にはファンの方からいろんな意見が出ますよね。ただ単に自分たちはこんなことをやっているとかではなく、日本格闘技界の競技運営の現状を含めて、わかりやすく説明する機会を設けたほうがいいんじゃないかとは常々思っていたんです。


――それで今回の取材を受けていただいたんですね。せっかくの機会なのでいろいろと伺いたいんですが、最近のRIZINでいえば、ギャビ・ガルシアvs神取忍の体重超過の件が騒ぎになりましたよね。


福田 この件に関して各方面から様々な意見が出されていますが、あるスポーツサイトで「RIZINには、計量オーバーが発生した際にどういう措置が取られるかという規定が存在しない」「様々な要因からルールに“あそび”」があると指摘されているんですね。


――VICTORYというサイトの記事(https://victorysportsnews.com/articles/6112/original)ですね。RIZINには規定が存在しないんですか?


福田 あるかないかといえば、規定はありますし、“あそび”もないです。なぜ規定がなく“あそび”があるという風に報道されてしまったのか思い当たるのは、RIZINは計量オーバーがあったときに「協議します」とアナウンスするじゃないですか。そこで「ゼロから協議している」と思われているんじゃないかなと。


――つまりその場その場で対応しているんじゃないかと。


福田 実際には細かい規定が数多くあって、超過体重によっては罰則を設けています。RIZINのアナウンスする「協議」とはどういうことかといえば、これはUFCをはじめとする世界中のビッグプロモーションにも言えることですが、オーバーしたから即中止という扱いはしていないということなんです。RIZINのような注目度の高いイベントであれば、関わっている人や会社が多岐に渡るので、その協議に時間がかかるし、慎重になるということだと思います。その部分だけをフレームアップして、主催者が恣意的にルールを捻じ曲げているのでは、みたいな誤解を招く報道は、正直もっとしっかり取材してから記事にしてほしい、という気持ちになりますね。


――UFCでは体重超過の際は罰金を払ったり、キャッチウエイトで実施されたりしてますし、試合を実施する方向で動いてますね。


福田 そうやって興行として試合成立に向けて動いているのはUFCもRIZINも同様で、なんの規定もなくゼロから協議しているというわけではないんです。決まった規定の中でどうやって運用していくかという話をしているのであって、そこに“あそび”はないんですね。他団体のルールを一つ一つ見たときにそれぞれに“幅”があるのはたしかですよ。たとえばRIZINはいまだに道着の着用がOK。そこはある意味、“幅”じゃないですか。


――RIZINはその規定を公にしたことはないですよね。


福田 ルールは抜粋というかたちでしかパンフレットに掲載してないですよね。RIZINには競技運営陣だけのページを作ってほしいという要請はしています。


――そこは公にしてないのはRIZIN側の判断ということですか?


福田 そうなりますね。ただ何か隠したい事情があって公表していないということではなく、単純に手が回らないということだと思います。これも笹原さんの職務怠慢かもしれません(笑)。


――体重超過でいえば、10月福岡大会のRENAvsアンディ・ウィンは、アンディが250グラムオーバーでした。この試合はワンマッチではなくトーナメント形式ということで処遇が難しかったそうですね。


福田 トーナメント独自のレギュレーションは存在しますが、トーナメントはノーコンテストルール(超過した選手が勝利しても無効試合)を運用しないということは主催者とも一致していて。体重オーバーが発生した場合は、個別に協議するという規定にはなっていました。ワンマッチの場合はシステマチックに決まっているんですが、トーナメントの場合はワンマッチよりは幅が広いことはたしかですね。


――トーナメントという形式上、想定外に対しての運用は難しいんですね。


福田 あの試合はアンディ・ウィンにイエローカードが出なかったですよね。なぜかといえば、RIZINの規定では1キロオーバーでイエローカード1枚、2キロオーバー以上でイエローカード2枚なんです。その規定どおりで、アンディ・ウィンは250グラムオーバーだったのでイエローなしのスタートだったんです。


――RENA選手は体重超過のまま試合を受け入れましたが、そこで何も罰則なしは不公平感が生まれますよね。


福田 それにトーナメントですから「体重超過のアンディ・ウィンが勝ったらどうなるんだ?」という疑問も競技として出てきますよね。そこは競技運営陣から主催者に対して「アンディ・ウィンへの出場停止勧告」を出すことはできました。「決勝に進出すべきではない」という勧告はありえましたね。


――でも、あくまで主催者に対しての勧告であって競技運営側に強制権はないんですよね?


福田 ないですね。計量オーバーに関して適用されるのは競技ルールではなく競技オプションになると思うんですね。競技ルールあれば何があろうと失格でいいと思うんです。


――ああ、オプションという言い方はわかりやすいですね。競技ルールだったら、体重超過後の交渉でキェッチウエイトですらおかしな話ですもんね。


福田 キャッチウエイトやノーコンテストルールの適用を否定はしません。プロモーターや選手としても試合をやりたい。アメリカのアスレチックコミッションの場合にしても、試合をやってもらわないと極端な話、運営はできなくなりますし、そこはお互い様だと思っている部分はあるのかと思います。


――そこは競技運営側も興行側の事情を加味しなければいけないということですか?


福田 いや、加味するというか、競技運営側が胸を張って言う類の話ではないですが、試合成立に向けて最大限の努力をするということですね。そこに「メディカルの問題がなければ」という注釈付きの話になりますけどね。この手の話は、メディカルと体重超過とゴッチャになりがちだと思うんですよ。


――UFCなどで試合中止になるケースは、超過された側の選手がペナルティやキャッチウエイトの条件に納得せずキャンセルするか、超過した選手のメディカルに不安がある場合になりますね。日本大会でも廣田瑞人選手が減量を理由とした体調不良で欠場という判断がくだされて。


福田 メディカルに大きな問題がなければ、主催者、選手、競技運営陣が試合実現に向けて協議していくということですね。基本的にはRIZINもUFCや他のMMA団体と変わりはないと思うんですね。たしかにスポーツ競技としては「即失格」「試合中止」を実行していくことが正しい姿なのかもしれませんが、それがプロスポーツとして成り立つかといえば、私はそうは思えないです。なので競技運営の立場と言えども、興行に対しての視野を完全に狭くしてしまっては逆に危険だと思っています。

 

――いままで競技運営側がRIZINに試合中止を勧告した試合はありますか?


福田 ギャビvs神取の試合に関していえば、ギャビの体重超過の時点で試合中止勧告をしました。でも、いまの日本の興行ではプロモーターの意思で強行突破できちゃいますよね。


――やろうと思えばできる環境ですね。


福田 競技運営側として試合中止勧告をしましたが、テレビでも目玉カードとして煽っていますし、興行側の立場になったら簡単に中止にできないだろうなと。やろうと思えば試合もできたはずですが、今回は競技運営側の意向も汲んでいただき、試合中止の選択をしたということですね。


――ギャビはかなりの体重超過でしたが、事前の体重チェックはどうなってるんですか? たとえば修斗やパンクラスでは管理していますよね。


福田 パンクラスは4日前、修斗ではサステインさんがプロモートする興行で1週間前と3日前にチェックしていますね。事前体重チェックというのは、体重超過を防ぐという目的であることは間違いないのですが、戻し体重がどのくらいかあるのかとか、適正階級を把握して健康・安全面に配慮するという側面も大きくあるのかと思います。いくら事前にチェックしても減量は何が起きるかわからないですから、それだけで体重超過を防げるというものではないわけですし、各団体で事前体重チェックの捉え方も異なってくるかと思います。RIZINの現場をいえば、他団体と同じように体重の管理や把握はしています。年末はバンタム級GPがありましたし、それこそ体重超過が許されない試合形式じゃないですか。ファイターが海外にいるときから体重の報告は受けていると聞いています。なぜRIZINが公にしてないかといえば、そこはシステムとして完成されてないからだと思います。そこはあくまで自主運用や自主努力の範囲内の話で、ビッグプロモーションとして厳格に「やっています!」とは言えるものではないと。


――システムとして完成はされていないから公にはしてないと。


福田 RIZINは他の団体と比べて外国人参戦選手が多いですよね。海外の選手全員の体重を本当に管理できるかといえば、まだそこまでのシステム化はいまのところ難しい。海外選手でもやろうと思えばできるんですよ。スカイプを通じてチェックするとか。そういうやり方を導入して初めて「やっています!」とは言えますよね。


――話を聞くかぎり、「やっています!」と位置づけてもいいような……そこを厳しく律しているからこそ信用に値してるとも言えますが。


福田 でも、システム化されてないと、何かあったときに説明できないですよね。たとえばRIZINは体重超過が怪しい選手はなるべく早く来日させて、体重を落とさせる環境をプロモーターが自主的に作ってあげているようですね。


――そこまでサポートしてるって凄いですね。でも、それはあくまで「体重超過が怪しい選手」への個人運用だから「ルールとしてやってます!」とは言えない。


福田 そういうことになりますね。そうやって経費をかけていることもあって、他団体と比べて体重超過はあまり出てないんですが、ビッグプロモーションなので目立ってしまっているのかもしれません。それにRIZINは契約体重制なので、体重が落としづらい設定の試合は組んでいないんですね。


――今回の五味隆典vs矢地祐介もユニファイドルールのライト級70.3キロではなく、73キロの契約体重でしたね。マッチメイクに関して競技運営の立場から発言することはあるんですか? たとえばギャビvs神取のような体重差がある試合とか。


福田 ギャビvs神取はこちらとしても疑問を感じるマッチメイクでしたし、「こういうカードは控えてもらいたい」という勧告はできます。ただ、興行として主催者が必要と判断するのであれば、そこはプロモーターの立場を全て否定することはできないですね。現状では年齢差や体重差のあるマッチメイクは、プロモーターの自主規制に委ねられると思います。今回は95キロ契約で組まれましたが、その最低限の基準が崩れてしまったので、主催者としても試合不成立という判断したのだと思いますね。


――どうしても日本のビッグプロモーションの競技運営は、主催者のやり方に振り回されるという印象があるんですね。


福田 そういうイメージがありますよね。私はもともとパンクラス審判部で育った人間で、いまはプロ修斗もやらせてもらっていますし、自分ではガチガチ型の審判員だと思っていました。PRIDEの流れを汲むRIZINからオファーがあったときは「悪い人たちと仕事をするんじゃないか……」って思ったんですよね(苦笑)。


――ハハハハハハハ! 昔のビッグプロモーションの競技運営は主催者に忖度してるんじゃないか……というイメージはありますね。

 

福田 いまでも警戒しているので(笑)、競技運営の立場として主催者とは距離を置いているんですけど。いままでのビッグプロモーションのイメージだけで捉えられてしまうということはあるかもしれませんが、他の団体と比べてRIZINが適当にやっているとは全然思いませんし、かなり整備されていると思うんです。たとえばRIZINが地方大会をやる際、ジャッジ陣はいつものメンバーを連れていきます。そこは競技運営側のほうからRIZINに要請させていただきました。地方だからということで地元の選手や格闘技関係者をジャッジとして採用するのは、いろいろな事情があるにせよ、普段定期的にジャッジをしていない人を使うっていうのは少し乱暴だなと思っていましたし、実際に判定結果がいつもと違ってくる可能性が高くなるんですね。


――なるほど、たしかにそうですね。


福田 主催者側の窓口は笹原さんなのでいろんな話をするんですが、笹原さんは「2-1」のスプリット判定に納得がいってないんですね。「気持ちが悪い」と(笑)。


――ムチャクチャ言ってますね、あの人(笑)。


福田 いや、笹原さんの言うことはよくわかるんです。同じ判定基準であるならば「3-0」になるはずだと。現実として「2-1」のスプリット判定は出てきてしまうんですが、できるだけ「3-0」に近づけたいというのがRIZINの考えなんですね。そのために試合後は後日の勉強会を開いて試合映像を見返して、判定基準や判定方法について指針をすり合わする作業をしています。例えば「ダメージ」という定義についてもジャッジ間でバラつきがないように何度も確認し合います。結果だけではなく、判定の中身の方を重視していますね。「ダメージ」、「アグレッシブネス」、「ジェネラルシップ」それぞれ何をどう見たの?って。そして、ジャッジの質を高めるためにどの大会でも同じジャッジを使おうと。ホテル代や飛行機代がかかっているわけですから、そこのサポートはありがたい話ですよね。


――けっこうな人数になりますよね。しかも試合前日、試合当日の2泊3日の連泊になりますし。


福田 RIZINのバックステージにはジャッジ、レフェリー以外にドクター、インスペクターを含めて50人くらいが動いているんです。一人一人に役割を持たせていて、青コーナー赤コーナーそれぞれのインスペクターや、もちろんバンデージチェックの係もいますし、アメリカのようにバンデージを巻く専門の係もいます。女子のボディチェッカーがいることはご存知ですか?


――ツイッターで話題になってましたね。リングイン前に女子選手のボディチェックをする女性の方。


福田 彼女もその仕事のために福岡から呼んでるんです。


――福岡からですか?


福田 10月の福岡大会で初めてやってもらったところ、評判がかなりよかったんですね。彼女は九州の現役大学生で柔道部員なんですけど、立ちふるまいがしっかりしていて全然もの怖じしない。地上波で生中継されるイベントなので、そこで緊張されてガチガチに動かれたり、ナヨナヨされると絵にならないですよね。立ち姿勢や佇まいなどが審判員向きでしっかりと仕事もできるという人材は実はなかなかいないんです。


――それで年末もわざわざ福岡から呼んだんですか。


福田 そこはRIZINのこだわりですよね。東京で別の人間を探してもいいじゃないですか。でも、評判がよかったからまた同じ人間を福岡から呼んで使うと。


――神経質なくらいマジメにやってますね(笑)。


福田 いや、マジメだとは思いますよ(笑)。あとは、例えば去年の1月にアメリカのABC(ボクシングコミッション協会)のレフェリー講習会に参加させてもらっているんですが、それもRIZIN側に提案したら、すぐにOKをいただいて、費用も含めて全てコーディネートしてくれたんです。カリフォルニア州のアスレチック・コミッションとも事務局を通じてパイプを作ってもらっているので、競技運営現場そのものを包み隠さず見せてもらったり。そこから影響を受けて実際に試しているようなことも実はかなり多いんですね。私はいろんな団体に関わらせてもらっていますが、 RIZINは「こんなことをやりませんか?」に対して「よしやろう!」と実行に移すスピードはかなり早いと思いますし、競技をより精度の高いものにするための貪欲な姿勢は、もっと評価されるべきだと思います。なのでRIZINはマジメにやっていないと言われるのは、審判部長としても悔しい気持ちはありますね。

 

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